新日本ジュニア戦線と高橋ヒロムの想い

G1 CLIMAX 31も折り返し地点を過ぎました。内藤選手が欠場したことは残念ですが、それを忘れさせるぐらいの熱い試合が連日繰り広げられています。そして、内藤選手の欠場に伴って組まれたスペシャルシングルマッチもまた非常に興味深いものが多くあります。その中でも最もファンの関心を集めていたのは、この日組まれたKENTA vs 高橋ヒロムではないでしょうか。
ヘビー級とジュニアヘビー級の壁
現在の新日本プロレスではジュニアの体型でヘビー級戦線にいる選手が多くいます。100kg以上をヘビー級、100kg未満をジュニアヘビー級という基準を厳密に適用すると、G1出場選手の中では飯伏選手、KENTA選手、高橋裕二郎選手、チェーズ・オーエンズ選手が100kg未満ですのでジュニアヘビー級ということになります。他にも本間選手、ジュース・ロビンソン選手、デビッド・フィンレー選手が100kg未満であるのに加え、ほとんどの選手が100kgを少し超えた程度の体重です。これでは昭和の時代の新日本プロレスの世界ではジュニアにカテゴライズされてもおかしくありません。
初期のプロレス界では、とにかく常人よりも大きな肉体が求められていたように思います。ジャイアント馬場さんは別格としても、アントニオ猪木さんは190cmでした。坂口征二さんは196cm、タイガー戸口さんは193cm、キラーカーンさんは196cmと見た目にも巨大でした。藤波辰爾選手(183cm)や長州力(184cm)さんは、ジャンボ鶴田さん(196cm)や天龍源一郎さん(189cm)、前田日明さん(192cm)と比べると低身長でしたが、その代わりに分厚い肉体を作ることでヘビー級として説得力を持たせていました。武藤敬司選手(188cm)、蝶野正洋さん(186cm)も高身長で、橋本真也さん(183cm)や佐々木健介さん(180cm)は巨体でした。この時代まではヘビー級の基準として体重もさることながら、身長もある程度まで加味されていたように思います。というのも、闘魂三銃士と同時代に活躍したヒロ斉藤さんは、ジュニア選手としてリングに上がっていた時でも最大で実は116kgあったということが明かされています。
ヒロ斉藤さんは175cmと低身長のため、おそらく当時の坂口社長からジュニア戦線にいることを求められたのでしょう。
また、昭和から平成初期の時代は明確にヘビー級の選手とジュニアヘビー級の選手とで試合での扱い方も違ったように思います。初代タイガーマスクが新日本プロレスに上がっていた時代のことはよく分かりません。しかし、初代タイガーマスクほどの人気と実力を兼ね備えた選手であったとしても、当時はジュニアヘビー級の選手同士の試合がメインイベントに据えられることは無かったと思います。ビッグマッチのメインでジュニアヘビー級の試合が組まれたのは、1991年の第2回TOP OF THE SUPER JR.優勝決定戦、獣神サンダーライガー vs 保永昇男ではなかったでしょうか。そうした意味では、BEST OF THE SUPER JR.につながるこの大会の意義は大きかったと言えるでしょう。
ジュニアvsヘビー
新日本プロレスでジュニアヘビー級の選手とヘビー級の選手とのシングルマッチで初めて注目を浴びたのは、1994年2月24日、日本武道館で行われた橋本真也vs獣神サンダーライガーでしょう。IWGPジュニアヘビー級王者であったライガーさんはジュニアとしての意地と誇りを持ってこの試合に挑み、真っ向からぶつかり合って敗れました。この後、新日本ジュニアの象徴だったライガーさんが日本のプロレス界におけるジュニアの象徴となっていきました。
さて、そのライガーさんとて、IWGPヘビー級王座に挑戦したことはありません。ジュニアとしての誇りを持っていたからこそ、その領域には足を踏み入れなかったのでしょう。ジュニアの選手がIWGPヘビーに挑戦したのは、2007年2月18日に両国国技館大会で行われた棚橋弘至 vs 金本浩二が初めてです。金本選手は当初から生涯ジュニアを宣言していました。しかし、この時代は新日本プロレスの暗黒時代の真っ最中です。新日本プロレス再浮上のきっかけとなったと言われる伝説の棚橋vs後藤はこの年の11月11日の両国国技館大会でした。棚橋vs金本の試合が行われた頃は、まだ出口どころか底すら見えない、本当に新日本プロレスがどん底の時代だったと言えるでしょう。この試合が組まれたきっかけは、この前年にヘビー戦線とジュニア戦線を盛り上げた両者による究極の戦いを見せるということだったようです。詳細はこちらの記事にあります。
棚橋と金本がIWGPヘビー級選手権試合で激突!/2/18両国大会会見 – 新日本プロレス公式サイトより
次にジュニア体型の選手がIWGPヘビーに挑戦した試合は、2010年9月26日神戸ワールド記念ホール大会での真壁刀義vs田中将斗でしょう。そして2012年7月22日山形市総合スポーツセンター大会での棚橋弘至vs田中将斗、2012年9月23日神戸ワールド記念ホール大会での棚橋弘至vs丸藤正道と続きます。ここでは、新日本vs外敵という構図があり、さらにIWGP挑戦以前に田中選手はZERO-1世界ヘビー級王座を、丸藤選手はGHCヘビー級王座を獲得していたという事実もありました。外敵以外でジュニアの選手がIWGPに挑戦したのは、2013年7月20日秋田市立体育館大会でのオカダvsプリンス・デビッドです。プリンス・デビッド選手はこの年にヒールターンをしてBULLET CLUBを結成し、そしてDOMINIONで棚橋選手に勝利するという実績を作った後にIWGPヘビー級王座への挑戦表明をしました。王座獲得はならなかったものの、これを機にBULLET CLUBのトップとしてヘビー級戦線に加わっていきました。そしてこの辺りから単に体重だけでジュニアとヘビーを区分けすることがなくなってきたのだろうと思います。そしてそれには2012年からブシロード体制が始まったことと無関係ではないでしょう。
怪物のような巨体の選手がぶつかり合うのが昭和から平成前半までのプロレスだとすれば、平成後半からはアスリートプロレスへと変化したと言えます。昔ながらのファンはこの当時、「こんなのプロレスじゃねぇ!」と憤り、そして新日本プロレスから離れていったかもしれません。しかし、ブシロード体制になってからのV字回復を見ると「すべてのジャンルはマニアが潰す」という木谷オーナーの考えは間違ってなかったと言えるでしょう。体重が100kg以下であったとしても、ヘビー級の選手を相手に説得力のあるプロレスを見せることができればすなわちその選手もヘビー級として扱われるようになってきました。
ジュニアは衰退する?
現在の新日本プロレスはジュニア体型であるKENTA選手やザックセイバーJr.選手、飯伏選手らがヘビー級のトップ戦線にいる状態ですが、それではジュニアヘビー級というカテゴリーは廃れていくのでしょうか?私はおそらくジュニアのカテゴリが縮小していくことはないと考えていますが、現場では危機感を持っていることは確かでしょう。だからこそ高橋ヒロム選手のこのコメントにつながったと思われます。
ヒロム「ジュニアとヘビー、違いが分かんねぇな。よくか悪くか、
違いが分かんねぇな。でもコレってさぁ、ヤバいんじゃないの? 全てが曖昧だとさぁ、これから先、 ジュニアをやりたいと思う人間がいなくなっちゃうんじゃないかっ て、すげぇ不安になったよ。ジュニアとヘビー、何が違うと思う。頼みの綱の上村も、『 105kgになって帰ってきたい』って言ってたし、 デビューしたばっかのあの2人も、 ジュニアなのかヘビーなのか分からないけど、 どっちなんだろうなぁ。ただ今、 この曖昧な状況でジュニアを選択してくれるかどうか、 俺はそこが怖い。どれだけすごい試合、必死こいた試合、 面白い試合をしようが、どっちを選択してくれるんだろうなぁ。(※立ち上がって)だったらさぁ、思いついちゃったんだよ。 ジュニアによる、ジュニアのための、 ジュニアの入門テストをやろうぜ。トレーナーはそうだなぁ……( ※ビデオカメラを指差して)金丸さんがいいかなぁ? いや、いいんだ、いいんだ、 コレを一人のファンの意見として聞くか、それとも、 真剣に向き合って、そろそろ考えるべきなんじゃないのか、 新日本プロレス。つまり、9.5メットライフドーム、 IWGPジュニアヘビー級選手権試合、ロビー・イーグルス、 新日本プロレス・ジュニアの戦いを見せた上で、(※胸を叩いて) 俺が勝つ!」(新日本プロレス公式サイトより)
そして、この発言の真意を自信のYouTubeチャンネルで語っています。
すなわち、180cm以上という身長制限をなくせという主張ではなく、生涯ジュニア宣言をする選手がほしいということです。ヘビー級への踏み台としてのジュニアヘビー級、あるいはヘビー級の前座としてのジュニアヘビー級というかつての状態からすると、はるかにジュニアヘビー級の地位は上がりました。しかしながら、いまだにジュニアからヘビーは一方通行です。私の知る限り、ヘビー級にいた選手が体重を落としてジュニアに戻ってきたのはミラノさんが唯一の例です。高橋ヒロム選手は現在の新日本でも最もジュニアに対する強い誇りを持っていると言えます。だからこそジュニアヘビー級の選手としてヘビー級のベルトを巻くこと、そしてジュニアの選手が東京ドームのメインを飾ることを目標としているのでしょう。
この日の高橋ヒロム選手はKENTA選手に敗北しました。KENTA選手の強さが光った試合でしたが、正攻法で勝たせなかったということはギリギリのところでジュニアとしての意地を見せることができたのではないかと私は考えています。高橋ヒロム選手の戦いはさらに続いていくことでしょう。今後とも注目していきたいと思います。
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