諦めなかった男、辻陽太の夢の入り口

諦めなかった男、辻陽太の夢の入り口

新日本プロレスより8月1日後楽園ホール大会で辻陽太選手、上村優也選手の壮行試合が行われることが発表されました。特に辻選手にとっては念願の海外遠征です。

海外遠征を諦めなかった男

新日本プロレスの若手レスラー育成方針として、デビュー後は1〜2年ほどヤングライオンとして主に前座の試合を担当してから海外遠征を行うというのが一般的な路線です。そのため、先輩に当たる海野選手や成田選手、少し遡ると川人選手や岡選手などもヤングライオン時代に海外遠征に行きたいという強い主張をしたことは(少なくとも私の記憶には)ありません。海野選手に至ってはむしろ海外遠征否定派でした。しかし、辻選手は違いました。メキシコへの憧れ、メキシコルチャ修行の願望を仕切りに発信していました。それにはもちろん理由があります。自分たちの下の世代のヤングライオンがいなかったこと、それに加えコロナ禍で海外渡航が制限されてしまっていることがその理由です。この状況で海外遠征は難しいだろうというのが大方の予想でした。

そして5月22日のROAD to WRESTLE GRAND SLAM 名古屋国際会議場大会より、辻選手のシングルマッチ4連戦が組まれました。ただこの時は選手の新型コロナ感染とその濃厚接触者が欠場となったことによる偶発的なカードだったのかもしれません。しかし、その次のKIZUNA ROAD 2021からは改めて5試合シングマッチが組まれました。7月2日の飯伏選手とのシングルマッチを合わせると、この1ヶ月あまりの期間にシングルマッチを10試合戦ってきたことになります。これは、若手・中堅選手の格上げ、もしくはジュニアの選手のヘビー転向時に組まれることの多かった「試練の○○番勝負」に近いものとして捉えられていました。すなわち、海外遠征に代わるものとしてこれらのシングルマッチシリーズがあるのだという考えです。

この間、対戦相手の多くからは称賛され、もはやヤングライオンではないという評価を受けました。同時に、海外遠征に関する先輩からの発言も多くありました。

オーカーン「海外に行きたい? 行ったらいいじゃねえか、オイ! 順番待ちしてんのか? 行きたきゃ行けばいいじゃねえか。勝手に行って、逆輸入されたレスラーだっているんだぞ。それと、海外に何を夢見てんだ? 海外が素晴らしいって? 考え足りねえフェミニストか、貴様ら! 甘えてるんじゃ、てめえらの根性はよ。ここは世界一の団体で、世界一のレスラーと戦ってんだぞ? 何を海外に求めてんだよ。てめえらの頭の中には試合も移動も給料も全部全部用意してもらって、甘えてんだよ! それがムカつくんだよ。それが出てんだろ、試合に。この3年間、行けねえのはてめえらが甘えてっからだ。だから、改めてもう一回言ってやるよ。てめえらは絶対成功なんかしねえよ! 海外に逃げるだけだ。今日のこの屈辱を少し覚えてるだけで、ちょっとだけマシになるんじゃねえか? てめえらに悔しいって、本当の気持ちがあんならな」(新日本プロレス公式サイトより)

これらのことから、辻選手、上村選手の二人は海外遠征を経ずにヤングライオンを卒業するのではないかという推測がされていました。そして、辻選手も自分自身を見つめ直し、信念を突き通す決意をしました。

辻「俺はこれで10試合シングルを戦った。戦う前は海外に行けない燻っている今の自分をどうにかしたいと思っていた。だがな、この10戦を終えてみて、棚橋さんや飯伏さん、オカダさんと戦ってみて、今の自分が歩んできたこの道のりは間違いじゃなかったって気づいたんだ。このまま自分を信じて俺は突き進むだけだ。海外に行こうと、日本でこのままやっていこうと俺は俺の道を進む。それだけだ」(新日本プロレス公式サイトより)

海外遠征を強く主張していた時から一歩引いた表現になっています。海外遠征を諦めたというよりは、現状を受け入れてベストな道を歩もうというニュアンスです。これ以降は海外遠征について発言することがありませんでしたが、それはおそらくこのコメントを残した7月2日前後に会社から辻選手に海外遠征に行けることが伝えられたのではないでしょうか。



内藤哲也を諦めなかった男

辻選手といえば、内藤選手とのシングルマッチ実現を熱望していました。きっかけとなったのは今年の1月12日の内藤選手の次のコメントです。

内藤「我々、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの中で、今シリーズ、テーマがないのは……オレだけ。そう、つまりノー・オクパードなんだよ。そんな中、今日更新された新日本プロレスモバイルサイトの本間選手の日記で、彼はオレに宣戦布告してたよ。いやいいと思いますよ。目の付け所がいいね。だってさ、今オレ、ノー・オクパードなんだよ、忙しくないんだよ。むしろ暇なんだよ。こんな状態、中々ないからね。もう本間選手以外にも今シリーズテーマのない選手はいっぱいいるわけで。それこそ内藤の名前を出してみたらいいんじゃないの? 実現するか、実現しないか、そこはそんなに重要じゃないよ。まずは口に出して自分の意志を言うことが一番大事なんじゃないの?(新日本プロレス公式サイトより)

これに対し、辻選手は1月19日の試合後、バックステージで次のようなコメントを残しました。

辻「(※コメントブースに現れるなり床に倒れて)オスプレイって、俺と同い年だよな? ああ、クソッ! それと内藤さん、ディホ・ノ・オクパード。シ・セ・キエロ・ルチャ・コンティゴ・ポロファボール。トゥ・エレス・ミ・スペルエストレージャ(※ノーオクパードと言っていたので、私があなたと闘いたいです。お願いします。あなたは私のスーパースターです)」(新日本プロレス公式サイトより)

辻選手が名乗りを上げたことで、両者のシングルマッチが組まれるかという空気感がありました。そして辻選手は内藤選手とのシングルマッチを実現するため、Twitterでの5.5万いいねプロジェクトを提案しました。新日本プロレスワールドの会員数が11万人、その半分の5.5万人という計算です。もしこれが公式に採用されていた場合はおそらく確実に5.5万いいねを獲得することができたでしょう。というのも、新日本プロレス公式Twitterは現時点で42.4万人のフォロワーがいます。この中で5.5万人というのはそれほど難しい話ではないでしょう。しかし、この提案は採用されませんでした。それでも諦められない辻選手は、自らのTwitterで5.5万いいねプロジェクトを行いました。辻選手のフォロワーは現時点で1.7万人です。普通に考えたら無理な話ですが、それでも実行し、最終的には3.6万いいねを集めました。高い目標を掲げ、諦めずにトライしていく姿は内藤選手の心に確実に届いたことでしょう。



二人の憧れの選手に見守られての壮行試合か?

念願の海外遠征、念願の内藤選手とのシングルマッチが同時に実現する運びになりました。辻選手のシングルマッチ10試合の中に内藤哲也戦が含まれていませんでした。そのため、もしこれが実現するならば海外遠征の壮行試合なのではないかと推測していました。以前に内藤選手が「プロフェッショナル 仕事の流儀」にて辻選手の試合が気になる旨の発言をしていました。内藤選手としても辻選手とのシングルマッチを望んでいたことでしょう。しかし、そう簡単に実現させるのではなく、然るべきタイミングでという意識はあったのだろうと思います。別のユニットに所属しながらも辻選手のことを気にかけ、しかし適度にあしらってきました。内藤哲也の気になる辻陽太、辻陽太の憧れの内藤哲也、二人のシングルマッチがいよいよ実現します。

そしてこの日のカードでもう一つ注目すべき点があります。直前の7月27日、30日、31日の後楽園ホール大会に出場する棚橋選手が、辻選手の壮行試合が行われる8月1日に試合が組まれていません。これは偶然ではないでしょう。私の予想としては、辻選手のセコンドとして棚橋選手が登場するのではないかと思っています。3年間リングサイドからその背中を見続けてきた棚橋選手。自らのプロレス入門のきっかけとなった棚橋選手。これから海外に旅立つ自分の背中をリングサイドの棚橋選手に見てもらうというシチュエーションを想像するだけで感動的です。棚橋選手が号泣しながらマットを叩いて辻選手を応援する姿が浮かんできます。

まだ気が早いですが、辻選手が凱旋帰国した際にはおそらく棚橋選手の対角線に立っていることでしょう。辻選手が憧れている内藤選手も対角線にいるのかもしれません。かつて内藤選手は棚橋選手に憧れつつも「棚橋程度にならなくて良かった」と言って退けました。辻選手も凱旋帰国後に素直にロスインゴ入りするのではなく、内藤選手を越えるために対角線に立つことを選ぶのではないでしょうか。歴史は繰り返すのかもしれません。

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